三高寮歌「逍遥之歌」



紅もゆるの碑

紅もゆるの碑 紅ないもゆる丘の花 狭緑匂う岸の色……と歌い出される「逍遥之歌」は、旧第三高等学校の寮歌で、明治38年(1905)に澤村胡夷(専太郎)によって作詞され、現代のものは当初と少し違っているようだが、ここにあるのは当時の原譜である。
漢文調で少し難解な言葉となっていて、読めない文字や意味が分からない言葉もあり、少しこれらを調べてみようと思う。



逍遥之歌の原譜

逍遥之歌の原譜 1.紅もゆる丘の花 狭緑匂ふ岸の色 都の春に嘯けば 月こそ懸れ吉田山
(くれないもゆるおかのはな さみどりにおうきしのいろ みやこのはるにうそぶけば  つきこそかゝれよしだやま)
吉田山に紅い花が一面に咲いている(春咲く紅い花はどんな花だろうか) 若草が匂う鴨川の岸辺 都の春にそ知らぬ顔をし この想いを隠すように吉田山に月よ懸かれ

3.千載、秋の水、清く 銀漢、空に冴る時 かよへる夢は昆崙の 高嶺の此方、戈壁の原
(せんざいあきのみずきよく ぎんかんそらにさゆるとき かよへるゆめはコンロンの  たかねのこなたゴビのはら)
長い年月、鴨川の水は清く 銀河(天の川)が空に冴える時に 想うは崑崙山(中国の伝説の霊山)の 山並み遥かゴビ砂漠

6.それ、京洛の岸に散る 三歳の春の花嵐 それ、京洛の山に咲く 三歳の秋の初紅葉
(それ、きょうらくのきしにちる みとせのはるのはなあらし それ、きょうらくのやまにさく みとせのあきのはつもみぢ)
それは京、鴨川に散る 変らぬ春の桜花 それは京、東山に咲く 変らぬ秋の紅葉花

7.左手の書にうなづきて 夕べの風に吟ずれば 砕けて飛べる白雲の 空には高し、如意ケ嶽
(ゆんでのふみにうなづきて ゆうべのかぜにぎんずれば くだけてとべるしらくもの  そらにはたかし、にょいがだけ)
想った人からの手紙を読み 心たかぶり夕風に歌へば 白雲も砕けて飛び みあげれば如意ケ嶽(大文字山)が見える

8.神楽ケ丘のはつしぐれ 老樹の梢伝ふ時 穂燈かゝげ、吟む 先哲至理の教にも
(かぐらがおかのはつしぐれ ろうじゅのこづえつたうとき すいとうかゝげ、くちずさむ せんてつしりのおしへにも)
神楽丘(吉田山)に初時雨が降り 老樹の梢を濡らすとき ほのかな灯のなかで口ずさむ  昔の思想家の教えにも一利ある

11.見よ洛陽の花がすみ 桜のもとの健児らが 今、逍遙に、月白く 静かに照れり吉田山
(みよらくようのはながすみ さくらのもとのおのこらが いま、しょうように、つきしろく しづかにてれりよしだやま)
京の左京が花でかすんでいる 桜の下で三高生が 今、散歩の月を見て、俗世間から心を解き放ち その月も吉田山を静かに照らしている

随分と意訳をしてしまったが、これをみた時に感じた想いである。




寮歌といわれる「応援歌」



ナンバースクールとネームスクール

ナンバースクールとネームスクール 明治になり、国民皆教育を目指し学区制が敷かれたが、その最高学府である高等学校が明治19年(1886)に設立される。
第一高等学校に始まり第五高等学校までは明治19年に創られ、続いて六、七、八と創設されたナンバースクールと呼ばれる学校と、
その他にネームスクールと呼ばれた地方都市の名が付いた高等学校、併せて39校が創られ、明治のエリートを育てる学校であった。
それらの学校は現在その殆んどが国立大学となり、それぞれの地方で教育の主幹を担っている。




そして、その高等学校には寮歌といわれる応援歌が存在する。「紅もゆる丘の花…」もその寮歌の一つである。一高から八高までのそれをみてみよう。(殆んど知らないのだが(笑))



第一高等学校(明治19年創立)現、東京大学(東京都文京区本郷)

「嗚呼玉杯に」(明治35年・1902)……嗚呼玉杯に花うけて 緑酒に月の影やどし と続く。




第二高等学校(明治19年創立)現、東北大学(仙台市青葉区川内)

「山紫に」(明治40年・1907)……山紫に水清き 郷は名に負ふ五城楼 と続く。




第三高等学校(明治19年創立)現、京都大学(京都市左京区吉田本町)

「逍遥の歌」(明治38年・1905)……紅もゆる丘の花 早緑匂ふ岸の色 と続く。
そしていま一つ「琵琶湖周航の歌」(大正7年・1918)……われは湖の子さすらひの 旅にしあればしみじみと と続く。




第四高等学校(明治19年創立)現、金沢大学(金沢市角間町)

「北の都」(大正4年・1915)……北の都に秋たけて われら二十の夢数ふ と続く。




第五高等学校(明治19年創立)現、熊本大学(熊本市黒髪)

「易水流れ」(明治39年・1906)……易水流れ寒うして 曠原草は枯れはてぬ と続く。




第六高等学校(明治33年創立)現、岡山大学(岡山市津島中)

「若紫に」(明治43年・1910)……若紫に夜は明けて あゝ暁天の雲の色 と続く。




第七高等学校造士館(明治34年創立)現、鹿児島大学(鹿児島市郡元)

「十九世紀の」(大正8年・1919)……十九世紀の文明の 殘光西に影薄く と続く。




第八高等学校(明治41年創立)現、名古屋大学(名古屋市千種区不老町)

「伊吹おろし」(大正5年・1916)……伊吹おろしの雪消えて 木曽の流れに囁けば と続く。




ネームスクールからひとつ
高知高等学校(大正11年創立)現、高知大学(高知市曙町)

「豪気節」(大正12・1923)……一つとせ 一人のあの娘が戀しけりゃ 潮吹く鯨で氣を晴らせ

=そいつあ豪氣だね=

                 ……二つとせ 故郷忘りょか若き身に 桂の濱に星が飛ぶ
=そいつあ豪氣だね=

                 ……三つとせ 南の國は土佐の國 革命と自由の生れし地
=そいつあ豪氣だね= と続く。

inserted by FC2 system